先日、キャンディーズのベスト盤を聴いてみました。懐かしくも甘酸っぱい楽曲が並ぶなか、特にグッときたのが「哀愁のシンフォニー」。テレサ・テン、石川さゆり、伊藤咲子らを手掛けた、三木たかしによる作曲です。

何より音楽の形式が美しい。いわゆる「三部形式」の曲ですが、第一部の中に「二部形式」を内包しているのが特徴。これを「複合三部形式」と言うかは微妙だけど、歌謡曲の中では最高クラスの構成美ではないかと。

哀愁のシンフォニー 作詞:なかにし礼

第一部は「あなたの目が 〜 つつんでいたわ」、第二部は「私の胸の奥の 〜 おびえるの」、第三部は「こっちを向いて 〜 なんとなく恐い」。各部は、調性変化(短→長→短)とテンポ変化(急→緩→急)によって繋がり、第二部の曲想が前後とは対称的になっています。

こう考えると、気になるのが「哀愁のシンフォニー」というタイトル。シンフォニー(交響曲)は、概して「ソナタ形式」が用いられており、それは「複合三部形式」の発展形と見なされる・・・って音楽の授業で聞いた気しませんか?。



さらに、第一部から第二部への転調方法(短調→長3度下の長調)は、ベートーヴェン「第九」やシューベルト「未完成」とも一致します(下注参照)。つまり、この曲には交響曲の形式感と調性感が息づいているということ。

そして"哀愁の〜"とは、第九→未完成→本作という、短調で始まる"シンフォニー"を指すのかもしれません。僕の勝手な想像ではありますが、こういったコンテクスト(脈略)をヒット曲に見出すのも、また楽し・・・です。

(注)短調で始まる"シンフォニー"の主題間転調
曲名第一主題第二主題転調度数
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」第1楽章 Dm B♭ 長3度下
シューベルト:交響曲第7番「未完成」第1楽章 Bm G
キャンディーズ:哀愁のシンフォニー Am F

 

PS)
哀愁のシンフォニーの試作版とも言える「霧のわかれ」については、こちらの記事を。

2019年10月 追記)
その後、『ヒットソングを創った男たち〜歌謡曲黄金時代の仕掛人』という本を読んでいた時に、偶然にも「哀愁のシンフォニー」のタイトルに関する記載を発見しました。

当時キャンディーズのプロデューサーだった若松宗雄氏によると、この曲の歌詞が完成したのはレコーディング当日の朝で、その時はまだタイトルが付いていなかったとのこと。そこで若松氏自身がタイトルを考えることになった経緯を引用しておきます。
(作詞者:なかにし礼氏から、タイトルは)「君の判断で付けていいから」ということだったので、当時流行っていたサンタナの「哀愁のヨーロッパ」(76年)と彼女たちの3人の調和というイメージから「シンフォニー」を足して「哀愁のシンフォニー」としたわけです。

濱口英樹 著『ヒットソングを創った男たち〜歌謡曲黄金時代の仕掛人』より

な〜んだ、「構成美に秘められた交響曲の系譜」なんて単なる妄想じゃないかと思いましたが、待てよ・・・と。若松氏はCBSソニーの営業マンの時代に、本社から送られてくるレコードを演歌からクラシックまでジャンルを問わず聴きまくっていたそうです。

そのハイブリッドな聴体験が、瞬時にこの楽曲の本質を見抜いてタイトルを閃めかせたのではないかと。若松氏は松田聖子をスーパーアイドルに育て上げたことで有名ですが、その天才的な臭覚はこの作品のネーミングにも発揮されたということでしょうか・・・?。