ビートルズの名曲として広く知れ渡っている「ヘイ・ジュード(Hey Jude)」。この曲の理論的な解釈については、色々物議を醸し出しているようです。そこで僕も、先日読んだ和声法の本に触発されて書いてみることにしました。

1. サブドミナント(S)進行とドミナント(D)進行


参考にしたのは「総合和声 実技・分析・原理」(音楽之友社)。その中にS進行(サブドミナント進行)という項目があり、音階上の主音から4度下(5度上)の固有音へ進行し、一巡して主音に戻る流れが説明されていました。

ハ長調ならド → ソ → レ → ラ → ミ → シ → ファ → ド 、コードで言うとC → G → Dm → Am → Em → Bm♭5 → F → C、ディグリーネーム(音度表記)では → → → → → → → 気箸覆蠅泙后

これは言うまでもなく、D進行(ドミナント進行)の逆。5度下(4度上)の固有音へ進行するD進行(C → F → Bm♭5 → Em → Am → Dm → G → C)は、部分的であってもカデンツで多用されるのに対し、S進行は最後の(F → C)を除いて使われなくなったとのこと。

この(F → C)を曲の最後に置くと、変終止(いわゆるアーメン終止)となる訳ですが、D進行の着地である全終止(G → C)と比べると、柔らかく空に舞い上がる感があります。だから賛美歌はこれで締め括られるのでしょう・・・。


総合和声 実技・分析・原理


ところで、「S進行はF → Cを除いて使われなくなった」という件でふと頭を過ぎったのが「ヘイ・ジュード」。曲の最後*1(リフレイン)のコード進行*2(C → B♭ → F → C)の意味が判った気がしたんですね。

*1 この部分は、エンディング、アウトロ、コーダなどの呼び方もありますが、当記事ではリフレインに統一しました。

*2 原調(ヘ長調)ではF → E♭ → B♭ → Fですが、ハ長調(Key=C)で話を進めます。

2. リフレインのコード進行が意味するもの


では、そのリフレイン(C → B♭ → F → C)を聴いてみましょう。



ここで問題となるのは二つ目のB♭。これはハ長調の固有和音ではありませんが、準固有和音(ハ短調からの借用)の擦世箸垢譴舒貳姪に使用できるコードです。では機能的には?と考えた場合、次のFから見た4度上のS(サブドミナント)とみなすのが妥当でしょう。

この場合の根音程は"シ♭ → ファ"の完全4度となり、ハ長調における最後のS進行"シ♮→ファ"の増4度とは異なります。つまりB♭は、ハ長調から見た"4度の4度"(ダブル・サブドミナント)という関係になります。

S進行は中世の時代にはよく用いられたそうですが、連鎖が途絶えた理由にBm♭5が減三和音であることが関係しているとのこと。そこでBm♭5をB♭に変え(同主短調から借用して)、S進行を蘇らせたのが「ヘイ・ジュード」のリフレインと考えるのはどうでしょうか?




3. S進行の浮遊感を際立たせる、執拗なD進行


理論上はともかく、このリフレインを繰り返し聴いたときの浮遊感は、S進行の成せる技でしょう。そしてこれが更に印象深く聴こえる理由に、歌の本編で使われている"執拗な"D進行が挙げられます。

最初の1フレーズ(カデンツ)《0:55〜》*はC → G → G7 → Cですし、第2テーマ(and anytime you〜)《1:48〜》も大筋はD進行。ブリッジ(da・da・da・dada・dadadada)《2:18〜》のG → C → Gの後には、G7の念押し《2:25〜》まで付いています。

*《》は動画の開始時間

そしてこの”しつこ〜い”D進行が最高音で頂点《4:03〜》に達した後に、S進行のリフレインが登場。今までとは真逆の進行があたかも鏡像を見るかのように繰り返され、フワフワと宙に舞い上がるように曲はフェード・アウトしていきます。

4. ポール・マッカートニーの天才的な臭覚 〜 むすび


さて、作者のポール・マッカートニーはこれを意図的に仕組んだのでしょうか?、こればかりは本人に聞いてみないとわかりません。しかしポールの天才的な臭覚が、本編〜リフレインの展開において、コード進行におけるアンチテーゼ(裏返し)を必要としたのは間違いないでしょう。

やはりこの曲は名曲と言わざるをえませんね・・・。