My Sweet Lord(マイ・スウィート・ロード)は、ビートルズ解散後にジョージ・ハリスンが発表したファースト・シングル。1970年に発表後、全米、全英でNo.1ヒットになり、ビートルズのメンバーの中では最も華々しくソロ活動をスタートさせるきっかけとなりました。


1.盗作騒動の経緯と結着


しかし、そんな順風満帆だったジョージに降りかかったのが例の盗作問題。アメリカのガール・グループThe Chiffons(シフォンズ)が歌い1963年に全米No.1ヒットになったHe's So Fine(イカした彼)と、My Sweet Lordが似ているとの指摘から、1976年には裁判沙汰へと発展します。

The Chiffons - He´s So Fine (Youtube)

Sweet Talkin Girls : The Best of Chiffons

結局、裁判はジョージ側が"潜在意識の内における盗作"を認める形で結審し、ブライト・チューンズ社(He's So Fineの管理会社)に、58万7千ドル(当時で1億数千万円)の損害賠償金が支払われました。こうして、全米No.1ヒット曲同士が争うという前代未聞の盗作騒動は結着した訳です。

さて、この判決について僕がどうこう言うつもりはありません。似ていることは事実だし、そこに至った過程が1)意図的であるか、2)無意識(潜在意識の内)であるか、あるいは3)全くの偶然であるか、を客観的に証明できない以上、中間の2)が落とし所だったのでしょう。

2.鍵を握る"Oh Happy Day"の存在


では、My Sweet Lordの真の創作過程はどのようなものだったか?。ここで鍵となるのが、ジョージ自身がインスパイアされたと証言したOh Happy Day(オー・ハッピー・デイ)の存在です。今回は、この楽曲との関連を掘り下げることで、盗作問題の核心に迫りたいと思います。

Edwin Hawkins / Oh Happy Day

Oh Happy Dayは、エドウィン・ホーキンスが作曲し、1969年に全米No.4にランクしたゴスペル・ソング。当時、スモーキー・ロビンソンらに代表されるソウル・ミュージックに傾倒していたジョージにとって、この楽曲から多大な影響を受けたことは想像に難くありません。

Oh Happy Day - The Edwin Hawkins Singers (Youtube)

自分もこんなスピリチュアル溢れるゴスペル・ソングを作りたい・・・、ジョージはそう思ったことでしょう。そしてこの楽曲の分析へと進み、次のような創作上のポイントが浮かび上がったはずです。(作曲上の専門用語が出てきますが、ご了承下さい。)

1) リードボーカルとコーラスの掛け合い(いわゆるコール&レスポンス)の形体
2) 侠后淵帖次Ε侫.ぅ屐砲離魁璽豹聞圓魴り返し、トニック(機砲悗硫魴茣兇魘調
3) 兇料阿法音階上のドミナント(7)を設置
4) 転調によるキーの上昇(神への接近を目的として)


もう一度Oh Happy Dayを聴いてみましょう。最近では、映画「天使にラブ・ソングを2」でも使用されたので、そのカバー・バージョンを埋め込んでおきました(歌:Angelrellas)。先ほどの4点が、いかにこの曲の賛美性と高揚感に結びついているかが確認できると思います。


いかがでしょう、何となくMy Sweet Lordとの繋がりを感じませんか?。全体の雰囲気は良く似ているのに、パーツの一つ一つは違っている・・・、Oh Happy Dayからエッセンスを抜き出して別の曲を仕立て上げるために、ジョージの作曲能力が存分に発揮された訳です。

3."He's So Fine"との類似と相違


My Sweet Lordに盛り込まれたゴスペルの精神とジョージの厚い信仰心が相まって、この曲は世界中で大ヒットしました。しかし"好事魔多し"とはよく言ったもので、思わぬ落とし穴が待ち受けていたのが先の盗作騒動です。

おそらく、前項の創作上のポイント2)で示した侠垢侶り返しを歌の冒頭で採用したことが、トラブルを招いた最大の要因でしょう。実際このコード進行を楽器で鳴らした時に、He's So Fineに近いメロディーを着想してしまうのは、無意識の盗用か偶然の一致かは別として、頷ける話です。

さらに付け加えるならば、アレンジの問題が挙げられます。実はMy Sweet Lordを初めて世に出したのは、ジョージから楽曲の提供を受けたビリー・プレストンだったのですが、このバージョンを聴く限りでは、He's So Fineとの類似をさほど感じません。

Billy Preston - My Sweet Lord (Youtube)

Billy Preston / Encouraging Words

それは、16ビートのリズム・バッキングや、黒人ならではのメロディー・フェイクといったアレンジの要素が大きいからでしょう。一方、8ビートのフォーク・ロック調にアレンジされたジョージ・バージョンは、He's So Fineとの類似が際立ってしまったと言えます。

つまり、My Sweet Lordがビリー・プレストンで留まっていれば、あるいはジョージがビリー・プレストン・バージョンをそのままカバーしていれば、盗作騒動はなかったかもしれません。でも、作曲者のジョージはセルフ・カバーを世に問うたわけですから、皮肉な巡り合わせですね。

また、事前にチェックできなかったのか?という疑問も残りますが、ジョージ自身はOh Happy Dayとの類似については周囲に相談していたものの、He's So Fineは全く眼中に無かった模様。アップル・レコードの重鎮でもあるジョージに対しては、誰も何も言えなかった可能性もあります。

All Things Must Pass (Original Recording Remastered)

4.ジョージの反抗心を表す2つの作品


判決が下され、My Sweet Lordには盗作のレッテルが貼られてしまいます。しかしジョージには、「Oh Happy Dayから影響されて作曲した」との思いがあり、He's So Fineとの類似は偶然の産物だとの主張を譲りたくなかったに違いありません。

この無念を晴らすべく、ジョージは二つの作曲を行います。一つは1976年11月(裁判が結審した2ヶ月後)に発表されたThis Song(ディス・ソング)。この作品では、盗作騒動の痛手が悲劇を通り越して喜劇にまで昇華されたジョージの心境が伺えて、嬉しくなってきます。

ちなみに、ピアノとオルガンを弾いているのはビリー・プレストンで、My Sweet Lord陣営の反撃のようで面白い!。辛酸をなめた裁判沙汰を、コミック・ソングにしてしまうジョージのインテリジェンスにも脱帽です。



もう一つは、死の直前に発表されたMy Sweet Lord 2000。アルバムAll Things Must Pass New Century Editionの収録曲として発表されたこのバージョンでは、He's So Fineとの類似を避けるかのようにメロディーがリメイクされていますが、あまり成功しているとは言えません。

George Harrison - My Sweet Lord 2000 Version (Youtube)

原曲のスムーズさを損なってまで、何故2000バージョンを発表したのか?。ジョージの真意を推し量るに、「だからMy Sweet Lord と最初のメロディとは不可分なんだよ」と言いたかったのでしょう。逆説的ですが、ジョージらしい言い回しだと思いませんか?。

All Things Must Pass (New Century Edition)

5.むすび 〜 信愛なる私の神


以上が、盗作問題に関するジョージの証言からの検証です。推測を交えた見解ですが、ジョージ・ハリスンの"側近中の側近"を自認する僕としては、どうしてもこれを書き残したかった・・・(笑)。結果的に当ブログ始まって以来の長尺記事に成りました。

結局My Sweet Lord とは、ジョージが生涯を通して挑んだ"神との交信"そのものだったのでしょう。その聖域を盗作問題で汚されたジョージの悔しさと情けなさは如何ほどのものであったか。その心情に想いを馳せながら、筆を置きたいと思います。

Concert for George (DVD)
この追悼コンサートでは、ビリー・プレストンがジョージ・バージョンのマイ・スィート・ロードをカバーしています。