時々、無性にシューベルトのアヴェ・マリアが聴きたくなります。ちょっと疲れている時など、慈愛に満ちた天国的なサウンドに包まれたいと思うのは僕だけでしょうか・・・?

さて、ラテン語の"Ave"には「こんにちは」とか「おめでとう」の意味があり、"Ave Maria"は聖母マリアへの祈祷を指します。なので、アヴェ・マリアと名の付く音楽作品は多数あり、シューベルト作はそのうちの一つにすぎません。(ちなみに原曲は、エレンの歌 第3番 作品52-6 D.839)

この曲を異なるアーティストで聴き比べたいなと思い検索しても、いわゆる「三大アヴェ・マリア」に代表される『同名異曲』の聴き比べが表示されます。じゃあ、自分で記事を書けばいいじゃん!という訳で、今回はシューベルト:アヴェ・マリアの『同曲異演』をお届けします。

1.女性ソプラノ 〜 ルネ・フレミング vs スミ・ジョー


まずは、現代を代表するソプラノ歌手、ルネ・フレミングのオーケストラ伴奏版から。


歌唱とオーケストラ伴奏が豊潤にブレンドされた、贅沢なアヴェ・マリアですね。当に天国的なサウンドで、安心して身を任せることができます。そして聴いているうちに、膨よかな胸に顔を埋めたくなってくる・・・そんな至福の演奏です。(笑)


ピエ・イエス〜祈りの歌

次は韓国が世界に誇るソプラノ歌手、スミ・ジョーによるピアノ伴奏版で、2006年のパリ公演における最後の一曲。澄み切った艶のある歌声はフレミングとは違った味わいで、僕には浄らかな"彼岸の音楽"のように聴こえます。

Sumi Jo - Franz Schubert - Ave Maria - Paris, 2006(Youtube)

実は本公演と同じ日に、スミの父親の葬儀が韓国で行われ、このアヴェ・マリアは最愛の人に捧げる告別の歌となりました。諸般の事情により、帰国よりも公演を優先したスミの想いが込められた、天にも届かんばかりの歌唱です。

尚、動画を前に戻すと演奏前の口上を聴くことができます。観客に対して気さくに受け答えながらも、深い悲しみを背負った公演であったことが伺えます。


Sumi Jo Collection

2.男性テノール 〜 ファン・ディエゴ・フローレンス


次は、男性テノールによるアヴェ・マリアで、ベルカント・オペラにおいて現代最高と評されるファン・ディエゴ・フローレンスによるオーケストラ伴奏版。アヴェ・マリアのフレーズで音をずり上げるポルタメントは、イタリア・オペラ系歌手によくみられる歌唱法です。


アヴェ・マリア〜セイクリッド・ソングス

3.ポピュラー系ボーカル 〜 フィッシャー vs イル・ディーヴォ


ポピュラー系アーティストでは、ドイツ人歌手ヘレーネ・フィッシャーのパフォーマンスが秀逸。クラシックではご法度とされる和音の変更や小節の伸縮にも説得力があり、聴き応え充分です。

Helene Fischer - Ave Maria/Schubert(Youtube)


Weihnachten (Neue Deluxe Version)

このアレンジをさらにゴージャスにしたのがイル・ディーヴォのバージョン。ボーカル・パートに厚みとバリエーションを出し、転調を加えたドラマチックな展開になっています。




Greatest Hits: Deluxe Version

4.チェロ+ピアノ伴奏


以上5組の歌手を取り上げましたが、今度は器楽によるアヴェ・マリアをご紹介。まずはチェロとピアノによる演奏から。(チェロ:Alexandra Moiseeva)

Ave Maria F. Schubert by Alexandra Moiseeva-Cello(Youtube)

この曲を弦楽器で演奏するなら、ヴァイオリンよりもチェロだな・・・と頷いてしまいます。チェロの深い音色とゆったりとしたフレージングが、アヴェ・マリアの旋律に実にマッチしています。ただ、チェロとピアノの音高が接近していて、中音域に音が偏ってしまっているのが残念なところ。

5.ピアノ独奏 〜 ヴァレンティーナ・リシッツァ


その点、次はピアノ1台でフル・オーケストラの音域にまで迫ろうかという独奏です。(フランツ・リストによるピアノ編曲版、演奏:ヴァレンティーナ・リシッツァ)


以前にも当ブログで取り上げたことのあるヴァレンティーナ・リシッツァですが、近年の充実ぶりには目を見張ります。難曲を軽やかに弾きこなすテクニックに加え、変幻自在なタッチでニュアンスを込める表現力がこの人の凄いところ。

特に2コーラス目から現れる高音の装飾音は、弾いた音符が天井に舞い上がっていくような感覚を覚えます。リストの編曲意図が汲み取れるような、当に"天国的なサウンド"・・・ですね!