服部隆之のことを書くのはこれで3回目です。1回目は森川由加里、2回目は椎名林檎の記事。いずれもアレンジャー(編曲者)としてのワークを取り上げた訳ですが、今回は作曲家そしてプロデューサーとしてのワークを中心に取り上げたいと思います。

1.はじめに 〜 作品の俯瞰と分析対象


まず氏の作品を俯瞰しておくと、そのほとんどは"テーマ音楽"と呼ばれるものです。TVドラマでは「真田丸」「下町ロケット」「半沢直樹」 、映画では「ゴジラ2000ミレニアム」、アニメでは「機動戦士ガンダム(THE ORIGIN 検法彭のテーマ曲が有名でしょうか。

尚、テーマ音楽は、歌のある"主題歌"と歌のない"主題曲"(インストゥルメンタル)に分けられます。2.3では氏の作曲から、機動戦士ガンダム(THE ORIGIN 検 主題歌「宇宙(そら)の彼方で」と、「下町ロケット」主題曲(メインテーマ)を掘り下げてみました。

またプロデュース&アレンジ・ワークとして、鈴木雅之が2014年に発表したアルバム「DISCOVER JAPAN供廚鮗茲蠑紊押▲灰鵐札廛肇▲襯丱爐砲ける説得力についても考察したいと思います。

2.機動戦士ガンダム 〜 並外れた音楽的技量と自立性



服部隆之の音楽の魅力を一言で語るならば、その際立った"説得力"だと思います。では、テーマ音楽における説得力とはどういうものでしょうか?。

広辞苑で"テーマ音楽"を紐解くと、"主題や基調を印象付けるために繰り返し流される音楽"とあります。つまり、聴き手に主題や基調を印象付ける度合いの強さが=説得力なのでしょう。

例えば、機動戦士ガンダム(THE ORIGIN 検砲両豺隋⊆臑蠅箚霙瓦蓮◆岷宙、戦闘、宿命、悠久、悲哀、人間愛」などとなりましょう。これを作詞者が歌詞で肉付けし、作曲者が音楽で印象付けるわけですが、その成果である「宇宙(そら)の彼方で」は完璧な主題歌だと思います。

宇宙(そら)の彼方で 歌詞 作詞:森雪之丞 

では、服部隆之の作品にある説得力の源泉とは何でしょうか?。一つは、作曲家としての技量が並外れていることでしょう。テーマ音楽に求められる命題(主題や基調の印象付け)に対し、あらゆる音楽・音響的テクニックを駆使して最高のクオリティで応えている点ですね。

二つ目は音楽の自立性という観点ですが、これを説明する前に、実際のアニメ映像の中で「宇宙の彼方で」がどのように聴こえるのかを確認しておきましょう。


いかがでしょうか?、映像と音楽が実に"噛み合っている"と思いませんか。ここで考えたいのは、戦闘シーンだからといって戦闘的な烈しい音楽がテーマ音楽として相応しいか?という問題です。それは映像と溶け合う音楽であって、単なるBGMに過ぎないのではないでしょうか・・・。

つまり良いテーマ音楽とは、音楽に自立性があり、ゆえに映像主体と触発しあって主題や基調を印象付けられるものではないかと。映像に凭(もた)れず馴れ合わず、車の両輪となって作品価値を高められる音楽とも言えますね。

以上の二点が、服部隆之の作品にある説得力の源泉なのだと思います。


宇宙の彼方で(Single, Maxi)

3.下町ロケット 〜 一心同体と化したドラマと主題曲


次は、下町ロケットの主題曲(メインテーマ)を見ていきましょう。

下町ロケット 〜メインテーマ〜 レコチェク試聴ページ

この楽曲も、ドラマ本体と実に噛み合っていると思います。その証左として、メインテーマを聴いただけで、ドラマのシーンや台詞の一つ一つが蘇ってくる・・・という感想を抱く人が多いですね。(Amazonの商品ページより)

まさにドラマと主題曲が一心同体の関係にあると言えますが、この噛み合わせの良さがどこから来るのか?をアナリーゼ(楽曲分析)の側面から考えてみました。

まず基本となるビートは2拍子。これは人間の歩行、運動性を表現するのに最適な拍子です。さらに1拍を3分して6/8拍子にすることで、メカニックな精巧さや規則性が内在されます*。つまり、この拍子の設定には、精密装置(ロケット部品)に関わる人生という主題が反映されています。

*市販の楽譜では2拍を2つ束ねて4拍子(12/8拍子)で記譜されているものがあります。

次に調性ですが、前半は重厚な短調、後半は清廉な長調に設定することで、苦悩と歓喜が織り成すドラマが音楽に装填されます。このように、拍子と調性だけで、下町ロケットの底流にある「人生・ロケット・苦悩・歓喜」という基調がなぞられているわけですね。

下町ロケット(ディレクターズカット版) Blu-ray BOX

更に着目したいのは楽曲の構成。中間に配置された緩徐部では、絶え間なく刻まれたビートが停止し、推進力を失った音楽はエアポケットに嵌(は)まり込んだように浮遊します。ここで表現されているのは、挫折や失望、癒しや思索の時でしょうか・・・。

そして徐々にエネルギーが蓄えられた後、重厚な短調のモチーフが再現し、次なる挑戦が始まるのです。この再現部はとても感動的で、モチーフがより力強く確信を持って鳴り響きます。逆に言えば、楽曲全体における緩徐部の役割は、とても大きな意味を持っていると言えるでしょう。

このように、拍子・調性・構成といった音楽の基本的要素と、ドラマの主題・基調が密接に関連しているいるわけです。その上で、細部に亘って純音楽としての磨きがかけられ、それが作品の自立性に繋がっているのですから"鬼に金棒"ですよね。


服部惑 メインテーマ・コレクション

4.DISCOVER JAPAN 〜 コンセプトアルバムに発揮される説得力


では最後に、服部隆之の最近のプロデュース&アレンジ・ワークを見ておきましょう。まずは、鈴木雅之が2014年に発表したアルバム「DISCOVER JAPAN供廚離瀬ぅ献Д好髪覗をご覧下さい。また、 レコチェクの商品ページからアルバム収録曲を試聴することができます。



このアルバムは、元来別個に存在していた楽曲を、"大人がくつろげる上質なソング集"というコンセプトで串刺したカヴァー・アルバムです。では、このコンセプトに応えるプロデュースやアレンジ・ワークとはどういうものでしょうか?

まず1曲目に、アルバム全体の主題・基調を示唆するテーマ曲(インストゥルメンタル)が配置されています。ドビュッシーの「海」を思わせるような管弦楽曲で、これから始まる音楽トリップへと誘うOverture(序曲)と言ったところでしょうか。

2曲目は「タイム・トラベル」(原田真二)で、服部隆之の優美な(時にアクロバティックな)ストリングス・アレンジが味わえます。次の「接吻」(オリジナルラブ)で耽美なひと時を得たあと、デュエットによる「幸せな結末」(大滝詠一)が楽しめるという展開・・・。

聞き進めるうちに気付かされるのは、選曲の良さや音楽的アイデアの豊富さ、そして原曲に凭(もた)れないアレンジの自立性でしょうか?。機動戦士ガンダムや下町ロケットでみた服部隆之の"説得力"が、このアルバムでも遺憾なく発揮されていると言えましょう。
 

DISCOVER JAPAN II

5.むすび


以上、服部隆之の作曲・編曲・プロデュースのワークを見てきましたが、氏の音楽には尽きせぬ魅力を感じてしまいます。日本の音楽シーンにおけるトップ・ランナーが、これからどういう作品を提供してくれるのかに注目したいですね。


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