女性3人組のボーカルユニット"Kalafina"(カラフィナ)が歌う"Storia"(ストーリア)は、NHKのTV番組「歴史秘話ヒストリア」の主題歌として有名。エキゾチック(異国風)でノスタルジック(懐古的)な曲想に魅かれる方は多いのではないでしょうか?。
こういった曲想を印象付けているのは、歌の冒頭部分「秘密の黄昏に、君の手を取った」のメロディでしょう。実はこのメロディには、中世ヨーロッパで普及したドリアの音階(ドリア旋法)*が使われているのです。
「Storia」歌詞&コード進行
ドリアの音階とは9〜10世紀の教会音楽で発展した音階の一つで、主音から始まる7つの音を、全音・半音・全音・全音・全音・半音の間隔で並べたもの。例えば鍵盤で、レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドと弾くと、レを主音としたドリアの音階が出来上がります。
ドリアの音階では主音と第3音の音程が短3度になるので、短調に近い響きがします。しかし主音と第6音の音程が長6度であり、主音と第7音の音程が短7度である点が、3種類ある短音階(自然短音階、和声短音階、旋律短音階)のいずれとも違うところ(下表参照)。
音階名 | 主音と第3音の音程 | 主音と第6音の音程 | 主音と第7音の音程 |
---|---|---|---|
自然短音階 | 短3度 | 短6度 | 短7度 |
和声短音階 | 短3度 | 短6度 | 長7度 |
旋律短音階 | 短3度 | 長6度 | 長7度 |
ドリア音階 | 短3度 | 長6度 | 短7度 |
つまり現代人の耳からすると、短調っぽいのだけれど、ちょっと趣の異なった独特の響きがすると言えます。参考までに、中世教会音楽の代表作である「グレゴリオ聖歌」から、ドリアの音階(ドリア旋法)で作られた「キリエ第4番」をリンクしておきました。
Kyrie IV from Mass IV, Gregorian Chant(Youtube)
いかがでしょう?。この音階の雰囲気がお分かり頂けたでしょうか。では、話を「Storia」に戻します。
Storiaでは、ハ短調(Key=Cm)の中にドリアの音階が組み込まれています。前述の通り、この音階は短調と相性が良いので聴感上の違和感はありません。ドリアの音階における主音は"ド"、第6音は"ラ♮"、第7音は"シ♭"となります。
この音を「ひみつのたそがれに、きみのてをとった」のメロディで探し出すと、「の」が第7音の"シ♭"、「た」と「が」が第6音の"ラ♮"、最後の「た」が主音の”ド"となります。この3音によって、ドリアの音階であると判定できる訳です。
ちなみにこのメロディを自然短音階に変換(移旋)すると、「た」と「が」は"ラ♭"になり、ガラっと雰囲気が変わってしまいます。たった半音違いなのに、凡庸なメロディになってしまうのが面白いところ。
まさにドリアの音階は、「歴史秘話ヒストリア」主題歌の奥義であることを実感させられます。そしてStoriaは、ドリアの音階が紡ぎだす「古(いにしえ)のバラード」という訳ですね!
*一般的には「ドリア旋法」と言われていますが、ここでは単に音の並べ方だけを問題にしているので、「ドリアの音階」としました。
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